フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)の時代が来た
金融庁は、「平成26事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)」のなかで、初めて、フィデューシャリー・デューティーという新しい概念を導入した。今回の金融モニタリング基本方針では、「資産運用の担い手」を「フィデューシャリー」と呼び、「受託者としての責務」を「デューティー」と呼んでいる。
金融モニタリング基本方針には、「家計や年金、機関投資家が運用する多額の資産が、それぞれの資金の性格や資産保有者のニーズに即して、適切に運用されることが重要である。このため、商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関がその役割・責任を実際に果たすことが求められる。」と書かれている。
実際、少ない年金を少しでも節約して金融機関に預けた場合、それが景気に左右されて減ってしまっては困る。資産運用を委託された受託者は、投資のプロとしての専門性を発揮し、真に投資家の利益の最大化を目指した運用が行われるよう、幅広い方策の検討を進めることが求められる。
これは金融機関の場合、単に商品を販売して、その契約書通りに運用するだけでなく、運用後も投資家の利益を最大限守るように努力しなければならないという、従来より一歩踏み込んだ考え方である。
米国などでは、これは必ずしも金融の世界だけで使われる言葉ではなく、医師や弁護士、税理士など専門家が負うべき責任のことを指すという考え方もある。病気になって医者に通う場合、その治療方法は専門の医師に任せるのが一般的で、医師にはインフォームド・コンセント(説明責任)が求められる。しかし手術の方法に何通りかあってどれを選ぶか聞かれても自分では判断しにくい。「先生のご家族ならどうしますか」と聞く人が多いそうである。
樋口範雄先生の「フィディシャリー(信認)の時代」という本にはこう書かれている。
イギリスにはコモンローとエクイティという二つの裁判所がある。かつてイギリスでは委託者から譲渡された財産を、受託者が自分のものにしてしまう事例が発生した。
信託を扱うエクイティ裁判所が判例を積み重ねていくうちに、このフィデューシャリー(信認)の概念が生まれたという。
証券会社にはファンドラップという商品があり、何に投資するかは証券会社にまかせる方式がある。老後を暮らす貴重な年金が減らないよう、証券会社が顧客の味方になってくれる倫理観に期待したい。