天声手帳

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TPPの憂鬱

熊本地震の影響もあり、TPPは今国会での承認は先送りされることが確実となった。海の向こうの米国でも承認が危ぶまれている。加盟国は現在12か国だがGDPの大きい米国と日本の動向は一番注目されている。最初は加盟国同士で関税を撤廃または大幅に下げることで、貿易が拡大され日本は工業製品の輸出がやりやすくなる。反対に農産物は消費者は安いものが手に入り歓迎だが、農家は輸入品に押されて作ったものが売れなくなり死活問題になる。こういう図式の中、甘利前経済再生相が辞任する前に大筋合意にこぎつけたと理解していた。

 

最近はもっと情報が開示され、事情が複雑であることがみえてきた。農産物の輸入は遺伝子組み換えの表示義務がないため、わからないまま食べてしまうことになる。著作権侵害は作者からの訴えがなくても、検察が捜査し摘発できる。著作権の有効期限は50年から70年に延長される・・などである。

 

ジェトロ提供のTV番組「世界は今」で栃木の赤いダイヤと言われるイチゴの新品種「スカイベリー」をマレーシアへ輸出する話を紹介していた。日曜のNHKの番組「サキどり」では野菜やくだものの鮮度を落とさないまま外国に輸出できる「鮮度保持袋」が開発されたという。日本のブランド「和牛」を世界に輸出しようというニュースはもう当たり前になっている。これらはTPPを見越してインバウンドの心配を逆手にとって、早くから準備し開発したものだろう。TPPが実行されるのを心待ちにしているかもしれない。

 

著作権の「非親告罪化」は漫画界や出版社を大きく揺るがせている。パロディや商標で似たものがあったら、見た人がネット等に書き込みすればあっという間に広がる。今までは作者が気にしないからいいよと言ってくれればそれで済んだが、これからはほっとけないと検察が乗り出せば罪になってしまう。これでは作る側はより慎重にならざるを得ないし、ちょっとでもあやしいものは避けることになる。東京オリンピックの「エンブレム」もまだTPP前だが著作権問題が複雑であることを教えてくれた。

 

TVで人気の林修先生が著作権の有効期限延長を紹介していた。これはコンテンツの知的財産をどう扱うかという問題で、世界標準に合わせるのだからといえばそれまでだが、日本にとってのメリット、ディメリットがまだ十分に見えていない。70年という長いスパンが対象なので、結論をみるまでに時間がかかるが将来的にはかなり影響があると思う。

 

明治時代に黒船の圧力で江戸幕府が締結した条約のうち、関税自主権を回復させる条約改正交渉は歴史の重要な部分を占め、井上馨をはじめ多くの偉人たちが苦労を重ねている。せっかく手に入れた関税自主権を今手放そうとしているのである。政府や国会の中に一般市民を巻き込んで、あのときと同じくらいの議論があってもおかしくないだろう。